富山県射水市の内川。日本のベニスと称される美しい景観を残す運河ぞいの街並み

富山県射水市を活性化する新プロジェクト「imizutto(イミズット)」の代表であり、立役者の一人でもある加治幸大さんは、港湾運送関連事業や廃棄物処理事業を展開する「北陸ポートサービス株式会社」の代表取締役。他にも、富山県初の森林資源を有効活用した木質バイオマス発電事業を行う「株式会社グリーンエネルギー北陸」を経営、さらに土づくりに始まり、自社農場での野菜づくりにも挑戦しています。彼に故郷・射水への思い、これらの事業を通して描く射水の未来像を聞きました。

地元の若者たちが体験し学ぶ場を作る

――北陸ポートサービスをはじめ、射水を拠点にさまざまな事業を展開されていますが、もともと地元愛や地元に貢献したいという意識は強かったんでしょうか?

射水で生まれ育った人たちの多くは、進学などで県外に出てしまうと、よほど地元に愛着がないと帰ってきません。僕ももともとは郷土愛が強いほうではなく、どちらかというと好きではなかった。埼玉の大学へ進学して、学生時代は東京で遊んだりしながら4年間を過ごしていました。卒業後、就職のタイミングで、父親が経営する会社(北陸ポートサービス)が転換期を迎え、営業担当を必要としていたこともあり、まだまだ東京で遊びたい気持ちもありながらも戻ることにしました。それまで家業について関心もなく入社してから初めて知ったぐらいです。それでもやっていくうちに、自分ができることは何かと考えるようになり、使命感が芽生えてきました。仕事を続けることで自分の存在感も示せるし、やりがいも見いだせるようになってきたんです。

――故郷を離れ、東京での生活を経験したからこそわかったこと、見えてきたことも?

そうですね。僕は学生時代、インディーズバンドのスタッフをしていたのでライブツアーに同行しながら、インディーズとメジャーの温度感の違いや、熱い思いで繋がっているバンドマンの人間関係を目の当たりにしてきました。自分もそういう関係が築ける人や会社と一緒に仕事をしたいと、働きながら自分の理想の会社を作っていこうという結論に至ったのです。だから、いま地元にいる若い人たちにも、僕がそうだったように実践とともに知ってもらう場を作っていかないといけないと思っています。

江戸時代には北前船の中継地として栄えた新湊の港。北陸ポートサービスも港湾関連事業からスタートした。

祖父の代から続く「北陸ポートサービス」を受け継いで

――お祖父さんの代に創業された北陸ポートサービスでは、どんな事業を展開されているのでしょうか?

北陸ポートサービスは、もともと船乗りだった祖父が起業した会社で、船舶清掃からはじまり、輸入木材の検疫くん蒸作業、木材の流通など、港でのサービス事業に携わっていました。昭和の時代から木の皮を堆肥にするリサイクル事業をはじめ、産業廃棄物処理事業を拡大しました。さらに父の代で多角経営を進め、堆肥の製造販売のリサイクル事業を拡大し造園・園芸資材法面緑化資材など販路を広げ展開しています。僕は20年前に入社しましたが、事業内容が傍目からはわかりにくい。社員にとっての働きがいを考えたときに、自分たちのやっていることを見える形にすることが大事だと思いました。そこで、自分たちが作っている「万葉ユーキ」などの土の効果や効能を生かして、農家と連携してより良いものを作ることを考えるようになりました。

グリーンエネルギー北陸の発電所施設。

地域資源循環を目指す。射水と環境の未来への投資

――バイオマス発電を始めるまでに、どんな経緯があったのでしょうか?

もともと富山県の港は、ロシアから120万立方メートルの木材を輸入していましたが、輸出関税の引き上げや、中国経由の安価な加工製材が入ってきて、入社し10年の間に丸太の輸入量は1万立方メートル以下まで減ってしまいました。このままでは丸太の流通に関わる弊社の業務も縮小してしまうため、富山の山林の木材を扱うことに目を向けました。平成24年(2012年)に代表に就きましたが、まず県内の森林組合に営業する中で、木は切っているけど実際は使われないまま山に放置されているという話を聞きました。

富山の山から運ばれる未利用間伐材がバイオマス発電の燃料となる。

――そこで伐採されたままの木の活用法を考えたのですね。

木は紙や建築資材になりますが、ペーパーレス化に伴い紙の需要は減少傾向にあり、住宅には安い輸入木材が使われます。さらに、富山は積雪が多く、急傾斜地なので、そもそも木が曲がってしまっていて使いものにならないという理由もありました。また資材単価は全国一律なので、わざわざ富山の木を使うと割高になってしまう。そういう実情を知った上で、富山の木で何かできないか考えたところ、木質バイオマス発電が国内で稼働したことを知りました。

土の需要を拡大する仕組みづくり

――その後、自分たちの土を使って農家と連携してより良い野菜を作るようになっていきました。なぜ土に着目したのでしょうか?

コロナ禍の2020年5月の連休に園芸店やホームセンターに人が殺到し、自宅で家庭菜園をする人が増えている状況を知り、自分たちの土がもっと世の中の役に立てるんじゃないかと確信しました。

富山の農家さんの特徴として、お米作りは得意ですが野菜はあまり作っていませんでした。実は、富山県は野菜の自給率が全国最下位なのです。既にお米作りでは自分たちの土を使ってもらっているので、これからは野菜や果樹などもっといろんなものにも土を使ってもらいたいと思い、農業生産法人を立ち上げるなど、さらに農業事業へも力をいれました。

自分にも子どもが生まれて、子どもたちの食べるものを考えた時、お米だけでなく野菜も当然必要で、いい野菜にはいい土が必要だと考えたんです。実際に自分たちで農業をやるうちに、農家や農業が抱えるさまざまな問題が見えてきたので、今度はそこを解決したいと思うようになりました。

――高齢化が進み、農業人口自体も減っていますよね。

どうしたら人は働きたいと思うか、野菜が流通できるかを考えたら、いい土でいい野菜を作ったからといって、ただスーパーに卸すだけでは変わりません。そこから食文化やライフスタイルまで概念を広げていかなければ、その先に発展しないと考えました。おしゃれでかっこいいイメージももちろん必要ですが、それ以前に、見えないところでの付加価値をつけることが大事。だから原料に廃棄物を地域資源として使うこと、土づくりや堆肥づくりの工程まで重要になってきます。

――他には、見えないところの付加価値をつけるためのアクションは?

昨夏、射水にヴィーガンカフェ「8ablish TOYAMA(エイタブリッシュ富山)」を作りました。それまで馴染みがなかったヴィーガンという食文化を伝えるだけでなく、自分たちが作った野菜をアイスクリームにすることで、東京へ運ばれ、全国展開されて広まり、結果、地元農家さんに利益を生むことに繋がります。競争しないものの売り方で、土の需要を拡大する仕組みをつくりたいと考えました。

左から右へ:国際医療ボランティア団体「ジャパンハート」最高顧問、創設者の吉岡秀人、加治幸大、8ablish代表でありデザイン会社アポロ&チャーカンパニー代表の川村明子。

いい土が社会をよりよくする、見えない価値を発信する

そこで考えるのは、いい土とは何かということ。農家さんが考える「いい土」というだけではなくて、環境や社会にとって「いい土」というものを表現していきたい。国際医療ボランティア団体「ジャパンハート」創設者の吉岡秀人先生の活動に協力し始めたのも、自分たちの土づくりで社会をよりよく変えていきたいと考えたからです。土を通して医療のバックアップをすることで、社会に貢献し、その土に付加価値が出ます。ただ、可視化されないことに対して理解を得るのはなかなか難しいです。

――「本当に大切なものは目に見えない」ともよく言われますね

電気も目に見えないところだから、石炭や原子力と比べると、バイオマス発電は高い。その高い電気を使うと生産コストが上がるけれど、それが自然環境をどう守っているかということに共感してもらえるようにしていかなければならない。いまや世界的に脱石炭は常識になってきています。環境保全は未来への投資です。今の自分たちのことではなく、将来、自分たちの子どもや次の世代に起きることに対して、いかにお金を出せるかということなのだと思います。

射水の名所の一つ、新湊大橋を臨む海王丸パーク。晴れた日は橋の向こうに壮大な立山連峰が見える絶景スポット

射水という町を世界に知らしめる挑戦

――imizuttoをスタートする前から、地元を活性化させる、町おこし的な活動に取り組んでいたのでしょうか?

射水の内川という地域は、江戸時代には北前船の中継地として栄えた運河沿いの街並みが残る魅力的なところです。行政としても「日本のベニス」をアピールして観光客を呼びたい。けれど、僕は昔からの商店街や、子どもの頃から知っている近所のおじさんや友人たちにむしろ元気になってほしい。今もそこに暮らす人たちがいるので、道頓堀のような観光地にしたいわけではないんです。

地元の人たちの思いを形にするために、地元の仲間と「ギネス世界一に挑戦」という企画を3回やりました。誰もがわかる第三者の認定をもらうことで自分たちの思いを行政に届けようと挑戦しました。

1回目は新湊大橋の下にある歩行者専用道路に約400mの名物のますの押し寿司を作って並べました。許可を取るのに1年かかりましたが、世界一を取ることができました。一生懸命に大人が頑張ることで、それまで見たことなかったような地元の若い人がたくさんお手伝いに集まってきてくれたんです。他には、地元産の竹で作った竹とんぼを飛ばしたり、漁網を使って世界一大きなハンモックを作る挑戦をしました。共同作業をすることで地元の住民が集まり、地元ゆかりのもので挑戦することでそれが世に広まるきっかけを作ることが重要だと思うんです。

――ギネスへの挑戦も、imizuttoも、地元の人々が笑顔で暮らしていくための仕組みの一環なんですね。

地元の人の気持ちを大切にしたいので、結果、移住者が増えるのはいいことですが、まずは地元の若者が射水にとどまるようにしたいし、若い世代と一緒に新しことに挑戦していきたい。自然エネルギー、土づくり、野菜づくり、社会貢献も、これからimizuttoを通じて見える形で発信していきます。

北陸ポートサービス株式会社
富山県富山市東岩瀬新川町380(本社)
TEL:076-438-1261
URL:https://h-port-s.com/

株式会社グリーンエネルギー北陸
富山県射水市片口久々江674-1
TEL 0766-86-5511
URL:http://www.geh.co.jp/

Photos:Teruaki Kawakami
Text:Ayuko Iwaki
Edit:Masumi Sasaki