岸近くから急に水深が深くなる富山湾の中でも、新湊漁港は中心部の最も奥深いところに位置しているため、3,000mの立山から海の深さ1,200mまで高低差が大きいのが特徴です。また、富山県に流れる5大河川のうち庄川と小矢部川の2つの1級河川の河口部に位置し、地元では「あいがめ(藍瓶)」と呼ばれている海谷(海底谷)も発達しているので、プランクトンが豊富で、シロエビやバイ貝、紅ズワイガニなど四季を通して多くの魚介類に恵まれています。

新湊漁業協同組合の松井幹雄さんによると、新湊漁港で取引される紅ズワイガニは地元の鮮魚店や料理店が買いに来て、ほとんどが地元で消費されるためなかなか他に出回らないのだそう。

水温が冷たい時期がおいしさ最高潮

自然条件に恵まれた良い漁場である富山湾では、古くからさまざまな種類の漁業が発達してきました。なかでも深海にいる紅ズワイガニの漁法は、富山県発祥。海底にエサを入れたかごを沈めておいて獲る「かにかごなわ漁法」といい、富山県魚津の漁業者・浜多虎松氏によって考え出されたもので、今では日本各地で行われています。

「カニがとれるのは9月〜5月いっぱい。紅ズワイガニは9月、本ズワイガニは11月解禁です。一番おいしくなるのは、水温の冷たい1月〜2月。海中と表面の水温に温度差がないほうが、身のしまりがよくなり、よりおいしいカニになると言われています」と松井さん。

ベニズワイガニの漁獲量は1日約4000匹

富山湾で獲れるカニには、本ズワイガニと紅ズワイガニがあります。本ズワイガニは、山陰の「松葉ガニ」、福井県の「越前ガニ」と同種で身が詰まっていて濃厚なのが特徴です。

より深い水深 800m~1,200mで獲れる紅ズワイガニは、生でも赤く、身がみずみずしく甘いのが特徴で、漁獲量も多く、1日平均4,000匹ほど、獲れる期間も長い。

ちなみに市場に出回る紅ズワイガニは全部オス。カニが市場に出る大きさになるまでには約10年かかりますが、特に紅ズワイガニのメスは抱卵期間が2年と長いので、全国的に禁漁になっています。そのため仕掛けにメスが入らないよう資源保護を考えながら漁が行われているのです。

昼セリは紅ズワイガニの後に本ズワイガニという順序で行われる。紅ズワイガニは水分が抜けないよう仰向けに置かれ、船ごとに大きい順に20匹単位で並べられる。

昼セリだから、より新鮮なまま食卓に

新湊は漁場が沖合20kmと近いことから、夜中の0時に漁に出て朝10時には港に帰ります。漁に出たその日に戻ってくるので鮮度が高く、獲れたての紅ズワイガニは、本ズワイガニと比較しても劣らない品質といわれているほどです。そのため、新湊市場ではカニは、全国でも珍しい昼セリが行われています。地元の鮮魚店や料理店は、より獲れたてで新鮮なものを手に入られるメリットがあり、おいしさも格別。

春のホタルイカ、夏のシロエビ、冬のブリと並ぶ富山を代表するブランドの一つとして食通たちを唸らせる紅ズワイガニ。なかなか全国に出回らない希少な新湊産の紅ズワイガニは、まさにご当地グルメ、冬にこの地を訪れたら味わうべき風物詩です。

Photos:Teruaki Kawakami
Text:Ayuko Iwaki
Edit:Masumi Sasaki